タカオブログ

ポンポンポン、ポンポンポン

2022年よかった本

2022年はけっこう本を読めた。

 

70冊くらいと、ZINEや歌集も合わせれば、もうすこしあるかもしれない。

 

就活と院試をやってたはずなのに、なーにダラダラしてんだという感じだ。

 

 

 

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ほんとうは誰かと「よかった本を共有する会」みたいなのを、一度できれば十分だったけれど、友達が少ないからか、声をかける勇気がなかったからか、とうとう年内にそういうのができなかった。

 

あっというまに正月、とても暇だし、文章にしてみることにした。

 

 

 

 

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よみもの系ベスト3

 

○大阿久佳乃『のどがかわいた』

授業の合間に、国立の本屋でみつけたエッセイ集。タイトルと表紙のイラストに惹かれて買ってしまった。

 

読みはじめたら止まらなくて、けっきょく授業をサボってしまったので、正確には「授業の合間」ではありません。

 

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筆者が詩や物語のたのしんだり、自身の内面から必死に言葉をすくいとったりする様がとてつもなく素敵で、「いいな!わいもこんなふうになりてえな!」という気持ちになる。

 

もしかしたら、去年読んだ本のなかで、ひらいた回数はナンバーワンかもしれない。特にフランシス・ジャムについての文章と、家族についての文章がいい。心が広がるような、世界がきめ細かくなるような、そんな感じがする。

 

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筆者が同い年なのにも驚いた。

 

 

 

 

 

○SAME OLD SERENADE 『if you don't have a heart, you are very lucky.』

 

タイトルも編者もわからず、ただ「離婚にまつわるアンソロジー」という説明とあやしい雰囲気に惹かれて買った同人誌。

 

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フィルムをあけて読んでみても、著者は明かされていないし、どこまでフィクションかもわからない不思議な10篇のエッセイが並んでいて、とてもゾクゾクする。話はどれも純粋に面白いし、それぞれ絶妙に違ういい匂いと思想をまとっている。

 

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失恋した人にちょうどいいじゃん!と思って、読みおえた直後に、たまたま一緒に飲んだ友人に勧めたがやんわり断られた。かなしい。

 

 

 

 

 

○朴沙羅『ヘルシンキ 生活の練習』

 

去年の1月に、ムーミン展のお土産ショップで見つけた。目次をながめていたら

「適切な服装をすれば、天気が悪いなどということはない」

という一文が目にとまり、ハハハ!と思って買った。あとで行きつけの本屋がSNSでこの本を紹介しているのを見かけて、ガハハ!ワシ見る目あるなあ!とたいへん気分がよかった。

 

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2人の子供とヘルシンキに移住した社会学者のエッセイ。いわゆる「北欧推し」の言説を、「隣の芝が青いからってなんやねん」と一蹴する。

 

でもそれ、正直なところ、どっちも「欧米」それ自体に、あんまり興味がないんじゃありませんか。興味があるのは「我が国」とか「私たち」だったりしませんか。

 

うわーそれなそれな。でも、自分もよくレポートで「隣の芝が青いからうちの芝も青くなるように頑張ろう」とか「実は隣の芝が青いのはこういうやばいことをしているからなんだぜ」みたいなことを書いちゃっている。でも大事なのは、比較して優れているとか劣っているとか、そういうことなんだろうか。

 

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こんなふうに振りかえると、なんだか難しい本なのかと思われそうだ。けれど、メインは「子育て&新生活ドタバタ劇inヘルシンキ」みたいなかんじで、まじで声を出して笑える。著者の関西弁のツッコミが軽快で、「面白い」という感想がぴったりな本だった。

 

 

 

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他にも、くどうれいん『わたしを空腹にしない方がいい』は読むだけでお腹いっぱい!しあわせな気分になれる。千葉雅也『アメリカ紀行』はいい文章でけっこう好きだった。能町みね子『結婚の奴』もあっという間に読めておもしろかった。

 

 

 

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かしこい系ベスト3

 

自分の研究に関する本は全然読まなかった割に、東工大リベ院の教員が書いた本を中心に、いろいろと読んだ。

 

オトナはオトモダチの刊行に際して、帯を書いたり、対談したり、RTしたりと、誰と誰がナカヨシなのかがとても分かりやすい。なので、芋づる式にテーマや関心に沿った本を見つけやすい。

 

 

宮地尚子『傷を愛せるか』

 

祖母が、友人たちの間で宮地尚子の本が流行っていると教えてくれた。自分の通う大学の教授でもあるし、まあ祖母との話題になればいいか〜と思い貸してもらったのだが、まーじでよかった。これ読んでるばあちゃんたちヤバい。

 

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彼女の、研究者としての葛藤を綴った章がとくに気にいった。

 

世界のトップの頭脳がこれだけ集まっても、することって競争しかないのかなあ、と少しすねて考えてみたりもする。

(中略)

こんなに賢い人がたくさん集まっているのに、どうして、世の中は良くならないのだろう。もっと幸せな社会にならないのだろう。そもそも、ここにいる人たちだって、あまり幸せそうに見えないぞ。

 

心に引っかかるささやかな「ねじれ」に立ちどまって考察をめぐらす。真摯で丁寧で、かっこいい。このあと彼女は、一人の血気盛んな若手研究者の姿勢に、学べる点もあると素直に感心しつつ、彼女のポリシーを問い直す。謙虚だけどブレない。かっこいい。

 

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タイトルの通り「傷」についての章もあって、とてもよかったし、「冬は寒いなあ」みたいな章もあって、とてもたのしかった。

 

 

 

 

伊藤亜紗『手の倫理』

 

もう名前を見ない日はないくらいにあらゆる記事・特集・番組に登場して、ソリッドな視点から、面白くて分かりやすくて中身のある話をしている伊藤亜紗さん。

 

全然ブレないのに、フィールドを広げても無理がない。マジでヤバい。

 

ハマりすぎて、5月に彼女の本を全部読んでしまった。その中でも一番よかったのがこの本。

 

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「ふれる」と「さわる」の違いに着目して、コミュニケーションと倫理を「触覚」という切り口で考える、というテーマがもうおもしろい。出てくる具体例もやっぱりおもしろい。

 

なにより、まえがきと第一章が、この本の立場表明のような文章になっているのだが、これがまじですごい。伊藤亜紗の「個の物語を紡ぐ」というライフワークと普遍的な問いとを往復する「倫理的な」営みを、この本ではやっていくよ、というような説明だ。まじかっこいいし、彼女の活動そのものをうまく説明していてヤバい。わたしがそれをうまく説明できなくてゴメンナサイ。

 

多様性を象徴する言葉としてよく引き合いに出される「みんなちがって、みんないい」という金子みすゞの詩は、一歩間違えば、「みんなやり方が違うのだから、それぞれの領分を守って、お互い干渉しないようにしよう」というメッセージになりかねません。

つまり、多様性は不干渉と表裏一体になっており、そこから分断まではほんの一歩なのです。

(中略)

(ウエストンの主張を引用して)つまり、多様性という言葉に安住することは、それ自体はまったく倫理的なふるまいではない。そうではなく、いかにして異なる考え方をつなぎ、違うものを同じ社会の構成員として組織していくか、そこにこそ倫理があるというのです。

 

ここが核心だとおもう。

 

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とりあえず真面目なかんじでおもしろい本を聞かれたら、今年はまずこれをオススメする気がしている。超よみやすいし。

 

 

○栗原康『村に火をつけ、白痴になれ』

 

伊藤野枝というアナキストの評伝。評伝ってむずかしそうと思っていたけれど、読みはじめてみると愉快痛快!おもしろすぎてあっという間だった。

 

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この本は「あの淫乱女!淫乱女!」という書き出しからはじまり、爆裂に心地いいリズムで進んでいく。とにかく暴れ回る野枝のエピソードは全部が純粋にオモロいし、そこにツッコミを入れる栗原康もまじでオモロい。

 

例えば野枝が、とあるキリスト教系の婦人団体の発言に対して論壇でケンカをふっかけた際、その文章を引用したあと、

 

「まあつまりは『お前まじムカつく』ということである」

 

とあって、爆笑してしまった。

 

その栗原康も同じくらいヤバい。あとがきは「3年ぶりに彼女ができてセックスをしまくっている」という話をしている。そんなあとがき、聞いたことがない。めちゃくちゃだ。

 

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野枝の文章や生き様は、日本社会のジェンダー論を破壊するようなインパクトがあるし、ポリアモリーや人工妊娠中絶をめぐる問題にも視点を提供している気がして、まだまだ読み返すような気がしている。

 

 

 

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他にも堀越英美『女の子はなぜピンクが好きなのか』は卒論のアイデアに繋がったのでよかった。伊藤亜紗『記憶する体』もびっくりすることがたくさんあった。中島岳志『思いがけず利他』も座談会に行くくらいおもしろかった。

 

 

 

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小説ベスト3

 

○年森瑛『N/A』

衝撃的すぎる、まじでヤバい。

 

大学の図書館で息抜きでもしようと思い、なんとなく手にとった文學界の巻頭にあった。

 

読後しばらく動けず、なんとか帰宅したあともぜんぜん飯が喉を通らなかった。

 

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はじめは、湿度のある人間関係の描写と、主人公の苦しい心の声に、もうなんも言えない!うわあああああ!おしまいだああああああ!という打ちのめされた。わかるわかる。どこまでも絶望。

 

けれど、何回か読むうちに、ラストシーンに登場した友人と元恋人の言葉にグッときて、なんとかこちらの現実にも希望を見出せるようになった。

 

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そういえば、一昨年も文學界新人賞の『彼岸花の咲く島』にもだいぶ影響されたので、今年もどうなることやら、たのしみ。

 

 

 

 

 

村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』

 

主人公がラスト30ページで覚醒する、まじでヤバい。

 

最初は何が起きたのか分からなかった。

 

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村田沙耶香は、心身を削って書いていることが作品から伝わってくる。なので自分もちゃんと向き合わなきゃならないし、途中で閉じてはならない気がして徹夜で読んだ。けれど、ラスト30ページの「覚醒」があまり理解できず、もやもやしながら朝を迎え、登校した。

 

中央線に揺られながら、なんとなくYouTubeを開いた。本当にたまたまSMAPの「Dear WOMAN」が出てきた。

 

サムネのキムタク美しすぎかよ!ヨダレ出んぞ!と思って再生したら、なんてこった、この小説のモヤモヤの全部が腑に落ちてしまった。

 

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主人公は覚醒後、クラスで常に容姿を貶されている信子に

 

「私、この白い街で信子ちゃんが一番綺麗だと思う」

 

「どんなに殴られても、そう思う。それは私の価値観だから、撤回できない。」

 

と伝える。これが「Dear  WOMAN」の

 

「君がどんなに否定しても本当だから揺るがない 君がとても美しいという真実」

 

「愛しい人がこの国で生きてるという震えるくらいの奇跡」

 

などなど、この曲の歌詞全体が、小説と完全に重なり合った。そうかそうか、そうだったのか。村田沙耶香のファンの方にはすこし申し訳ないけれど、長編小説のメッセージを、音楽を補助線にしてスッと理解してしまったのは、少しおもしろい体験だった。

 

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この読書体験を通じて、「Dear  WOMAN」の方も大好きになった。気分がよくなると、サビがCMソングとして有名なのをいいことにカラオケで歌って人にきかせては、「懐かしいねー」なんて言ってごまかして、内心ひとりでホクホクしている。キモいね!

 

 

 

 

加納愛子『黄色いか、黄色くないか』

Aマッソの思想が強い方、加納による中編小説。

 

Aマッソのラジオを聴きはじめたころ、図書館で借りて読んだ。すこし感動してしまって、すぐに書店で買った。

 

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芸人と劇場スタッフの裏側を描いた物語で、だいたいの人はそこを楽しむだろうけれど、わたしはすこし違った。序盤からちょっと少しずつ垣間見える、主人公のコンプレックスが、自分と同じなんじゃないか?と思えた。同じな気がする!だよねだよね!と、どんどん感情移入して、応援したくなる。

 

ラストシーンでとうとう明かされたトラウマは、驚くほど鮮明で、フィクションだと分かってはいるものの、これを描いた加納も自身も同じような経験をしたんじゃないか、と信じたくなる。というか信じている。

 

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この物語の主人公はお笑いを救いにしている。ということは、加納が劇場に立つ理由も、そういうことなんじゃないか。この人のお笑いを生で見たいと思い、ライブに行った。出囃子で泣いてしまった。まじでキモいかも!

 

 

 

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他にも、カミュの『異邦人』は、終電を逃してマックで朝まで耐久するために読んだが、ほんとに終電を逃してよかったと思うくらいおもしろかった。太宰の『斜陽』は旅行のお供だった。『総理の夫』は去年4冊読んだ原田マハ作品の中でダントツで面白かった。映画もみた。

 

 

 

 

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本棚をひっくり返して、パラパラと読み返しながら、

去年のことを思い出しながら、たくさんみかんを食べた。

たのしい正月になった。

 

 

でも文章を書くのはやっぱり難しい。

今年は誰かとおしゃべりで済ませたいぞー