タカオブログ

ポンポンポン、ポンポンポン

2023年よかった本

2023年は本をけっこう読めた。

数えてみると100ちょいだった。ペース的には学校がはじまってからのほうが読んでいて、よっぽどヒマしてたんだな〜という感じだ。

春くらいから、お友達🕺の家(本が1500冊くらいある)にあそびにいくようになったのが大きい。踊りながら仕事をする友達🕺とおしゃべりしながら本を読んで、すこしダラダラして、いくつかの本を借りて帰る、という日がちらほらあった。

借りる本を厳選するのは超たのしい。こどものころ図書館で貸しだし冊数の上限に頭をなやませていた時のような、さいこうにワクワクする時間。

::

ひまなので、本棚をひっくりかえして今年の10冊を選んでみた。

 

 

 

よみもの系

『それで君の声はどこにあるんだ? 黒人神学から学んだこと』榎本空

すきな本屋さんがオススメしていたので友達🕺に借りてよんだ。文章も装丁も、まとうオーラがすごくて、興奮ではやる手を抑えながらゆっくり読んだ。これまで抱いたことのない読後感。今年ナンバーワンかもしれない。

--

黒人神学のジェイムズ・H・コーンに師事するため、NYのユニオン神学校に渡った作者のいわば留学記なのだけど、ただの留学記ではない。重い歴史と切実な現実の渦のなかに身をおいて、真剣に語り学び悩み、それでもなんとか生活をする。こういうのをほんとうの青春というのかもしれない。コーンが目のまえで机をコンコン叩いているような気がしてきて、(わたしはベッドで寝っころがっているだけなのだけど)とてもうれしかった。

--

西加奈子の『サラバ!』を読んだ直後だったので、ニーナ・シモンを聴きながらよんだ。ニーナ・シモンはじぶんのファイトソングになった。

 

 

『ペーパームービー』内田也哉子

家族とか夫婦ってなんだろう、の関心のさきにいて、ずっと気になっていた内田也哉子さん。わたし、19才、文章をかいてって言われたって困っちゃうよォみたいなノリではじまるのに、とても19才とは思えない人生観、達観、圧巻。

--

👆母(樹木希林)✌️父(内田裕也)、👌夫(本木雅弘)とのエピソードひとつひとつがぶっ飛んでいて、ドラマチックで、めちゃくちゃおしゃれで、なのに等身大で、おおきな愛にみちている。かと思えば、いきなりお風呂に話しかけたり、ワンダフル・カレー・パーリーナイトを開催したり、ちいさなユーモアにあふれている。

--

也哉子さんがはじめて訳した絵本『たいせつなこと』もだいすき。ちなみに最近おばあちゃん家から絵本を大量にもって帰ってきて、寝るまえとかにじぶんに読み聞かせをしている。

 

〈ほかのノミネート〉

植本一子『個人的な三ヶ月 にぎやかな季節』はお子ちゃんと一子さんの関係がすごくよかった。金原ひとみ『パリの砂漠、東京の蜃気楼』はことばが鋭利すぎて脳汁どばった。西加奈子『くもをさがす』は大変ありがたく読んだ。ありがとう。李琴美『透明な膜を隔てながら』は(これはマジで良すぎるほんとうは余裕でランクインなのだけど李さんは小説のほうにいれたので遠慮、でもほんとにつよい)。松岡正剛『ルナティックス 月を遊学する』は登下校のおともだった。荒井裕樹『まとまらない言葉を生きる』は線をたくさん引いた。大切なことがたくさん書いてあった。

 

 

小説

ポラリスが降り注ぐ夜』李琴峰

すごい〜!よすぎる〜!つよすぎる〜!
--
とある夜、新宿二丁目のバー「ポラリス」で交錯する女性たちをかいた7つのたんぺんで構成されている。ひとりひとりが複数形で生きているということが、ただそれとして伝わってくる。ある章の主人公が別の章にひょっこり登場するしかけも面白くて、じぶんで似顔絵つき相関図をつくって考察ごっこしてあそんだ。

--
李さんには、「他者」を描くことについての圧倒的な信頼がある。あと、自分の作品を紹介するときに必ずしっかり自画自賛するところもすき。これからも追っかけたい。

 

 

『青と緑』ヴァージニア・ウルフちょ、西崎憲へん/やく

ヴァージニア・ウルフのたんぺん集。ちょっとしたウルフブームのときに『波』に挑戦してみたけれど数十ページで挫折。それでも気になっていたのでたんぺんなら、と読んでみたらすごくおもしろかった。

--

いわゆるウルフ的な「意識の流れ」というかんじではない(らしい)けれど、このうえなく幻想的な世界を歩いているきぶんになってたのしい。Dr.ハインリッヒさんのネタをみているときと似たような感覚。具体的なできごとはほとんどなにも起こらない。湖面がゆれたり、燭台に水がしたたったりするだけ。なのにぐんぐん妄想がはかどる。

とくにすきだったのは『ラピンとラピノヴァ』『青と緑』『外から見たある女子寮』『サーチライト』

--

ウルフをよむときはだいぶ意識を宇宙にとばさないと楽しめない。授業をうけるとか、労働をするとか、そういう地球にひきずりこまれそうなときに読んで、平静(あるいは酔狂?)を保っていきたい。

 

〈ほかのノミネート〉

朝井リョウ『正欲』はまえがきと怒涛のラストがよかった。映画もふくめていろんなひとと話せてよかった。安部公房『第四間氷期は慣れるのに時間かかったけど超おもしろかった。ヘッセ『車輪の下で』はじぶんも一緒にうつぽくなっちゃった!でもおもしろかった。市川沙央『ハンチバック』はすごい。賞とれてほんとよかった。文學界新人賞のときの村田沙耶香金原ひとみの評がちょうかっこよかった。町屋良平『スポーツ 基礎と応用』はめちゃおもしろい。予想をはるかにこえてきた。今村夏子『こちらあみ子』ははじめ衝撃でダウンしてしまった。そのあとこれをちゃんと読むための活動をして、それにすごく意味があった。山田詠美『ぼくは勉強ができない』は10年ぶりくらいに読んでおもしろすぎてビックリした。秀美くんさいこう。

 

 

かしこ系

〜〜〜編著(へんちょ)編〜〜〜

『記号化される先住民/女性/子ども』石原真衣へん

え!みなさん!集まってくれて!ほんとありがとう!わしが集めたわけじゃないけど!かっこよすぎる!ありがとう!というかんじ。

--

北海道大学 アイヌ・先住民研究センターで2021年にかいさいされたシンポジウムを書籍化したもの。ぼんやりと石原真衣さん、内藤千珠子さんあたりが気になりはじめたころに新宿御苑まえの本屋で偶然みつけて手にとったら大あたりだった。すごい。互いの論をひきながら「記号化」というひとつの軸でつらぬいて華麗に共鳴・共振しているかんじ。最初はピンとこなかった専門領域のことなる6人の並びが、読後はスーパーチームのようにみえてくる。みなさんが巡りあい、互いの(時にひどい仕打ちをも受けてきた)仕事を評価しあっているさまは、アカデミズムの闇にさす尊い光のようにおもえた。という意味で、それぞれの論考のおもしろさはもちろんのこと、へんちょとしての学びがあった。とてもうれしい。

内容もとてもおもしろかった。アイヌの当事者/他者表象における記号化と抑圧のプロセスが、考古学、文化人類学フェミニズム、文学批評、現象学などの視点からしなやかに解剖される。特に内藤さんの章にぐっときた。じぶんと地続きな現在が内包する暴力構造をはっきり言語化したうえで、マイノリティとマジョリティの二元論の境界をゆさぶる可能性をフィクションに見いだす。ちょうど11月くらいにかんがえていたことをバチンと言い当ててくれた。きもちいい。さらに個人的に、ここしばらく社会学とインターセクショナリティの取り合わせがよくないかもなあと感じていたのだけど、「記号化の両義性」というところを考えていけばいいかも、というヒントをもらいました。ありがとう。

--

どこまでも思慮深く、けっして安全な場所から見下ろしたりはしない。6人の言葉は、安っぽい「多文化共生」や「ダイバーシティ」とは対極にあって、希望に満ちた美しいものだった。これはとても有り難いこと、ほんとうにありがとうございます。

 

現代思想 特集*インターセクショナリティ』2022年5月号

お世話になりました!これからもよろしく!というかんじ

--

「インターセクショナリティ」という概念が練りあげられてきた歴史と、現在進行形で展開する広範な研究・実践を追ったもの。言葉は3年前くらいに知って、この号もかるく読んだことはあったけれど、ことしの4月にじぶんの研究は「インターセクショナル・デザイン」だよと先生に言われて、ああそうなんだァとおもってふたたび読みはじめた。今年はほんとうにここをベースに、いろんな本を行ったり来たりして過ぎた一年だったようにおもう。

冒頭の討議はなんども読みかえしたうちのひとつ。石原さんの「ベル・フックスをちゃんと白人の立場で読みましたか?」という問いかけは、ゆっくり噛みくだきながらようやく理解しはじめたような気がする。じっさい、ここの日本人の「白人性」についての話題のなかで、ここって「黒人」の言い間違いじゃない?と思う部分があったのだけれど(友人宅でのフックス読書会でも「あれミスだと思って青土社に電話したわと言っている方がいた)いろいろ他の本を読むうちに、あ!これはミスなんかじゃないわ!とストンと腑におちる瞬間があったりもして、ゆっくり分かってきたかんじがして、とてもおもしろかった。

--

やっぱりインターセクショナリティは、細い枝がどんどん伸びてひろがってゆくし、伸びた枝と枝は交差したり、根本でつながっていたりするからおもしろい。得てしてそういうものかもしれないけれど、へんちょであることの意味がある。これからもよろしく。

 

 

〈ほかのノミネート〉

川上未映子へん『早稲田文学増刊 女性号』は手に入れたとき震えた。これぞエレクトリカルパレードってかんじ。とくに多和田葉子『空っぽの瓶』に出会えてほんとによかった。雪舟さんは今日もさいこうだいすき。菊池夏野/堀江有里/飯野由里子へん『クィアスタディーズをひらく3 健康/病, 障害, 身体』はたくさん線をひいた。どんどんひらこう!現代思想22-06 特集*肉食主義を考える』ヴィーガニズム/カーニズムあたりのはなしにお熱になってた時期もあったなぁで懐かしい。土屋葉へん『障害があり女性であること:生活史からみる生きづらさ』は読みごたえがあったし、すごいプロジェクトだった。石井更幸へん『アルビノの話をしよう』は知れてよかったし、こういうのもっと読みたい。青本柚紀/高島鈴/水上文へん『われらははすでに共にある:反トランス差別ブックレット』は内容はもちろん表紙のイラストがすき。あと作家の生活とホンネみたいな文章だいすき。てぱとら委員会『私たちの中学お受験フェミニズムはへ〜そうなんだ!あ〜そうだったかも!な感じでおもしろかった。

 

〜〜〜単著(たんちょ)編〜〜〜

 

『ACE:アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』アンジェラ・チェンちょ、羽生有希やく

東工大にきて間もないころ、とりあえずジェンダーと名のつく授業を学部にひとつだけ(ひとつだけ!?)みつけたので潜った。それが羽生先生の授業だった。

--

あなたがエースだと自認しないにしても、それはあなたのためにあるんだ。(p.227)

アセクシュアルのレンズから社会を再考することで、いろんな紐をほどいている。おもしろい。

セックスを欲することが健康や人間性の要件であるべきではないのだ。(p.202)

言い切ってくれてありがとう。

脚注がとても充実していて、そこに訳者の想いが垣間みえてすごくよい。とくに「they/them」についての注がお気にいり。あとがきで「Welcome to the ace worlds」の訳出についてちゃんと説明してくれてたのもよかった。かこええ。仕事人だ。

--

一橋の先生たちだったらがっぷりよっつ組み合って論破していたであろう生徒にたいしても、羽生先生は穏やかな口調で「論点はこうですか?」「なぜそう思うのですか?」と問いかけていたのが印象的だった。いっぽうで街頭や配信では(ボソボソと)アツい訴えをしていてかっこいい。

 

〈ほかのノミネート〉

D・カメロン/D・クーリックちょ、中村桃子/熊谷滋子/佐藤響子/クレア・マリィやく『ことばとセクシュアリティはどの章もめちゃおもしろい。中村桃子『「自分らしさ」と日本語』は研究でたいへんお世話になった。メールの返信はこなくてかなしい。周司あきら/高井ゆと里『トランスジェンダー入門』はもちろんよかった。毎日新聞取材班『ヤングケアラー:介護する子どもたち』は授業の課題でよんだ。こりゃーすごい。こんな仕事できたらいいなぁと思った。好井裕明『「感動ポルノ」と向き合う 障害者像にひそむ差別と排除』はかんたんな言葉でていねいに書かれていてわかりやすかった。

 

 

ポエ系

茨木のり子集 言の葉3』茨木のり子

むかし地域の図書館の「日本の詩歌」コーナーで適当に手にとった詩集のなかの気にいった詩をひとつだけコピーして持ち帰るという、10円の暇つぶしをしていた。それがあるとき、机のひきだしからベロンと出てきたのが茨木のり子の「一人は賑やか」のコピーで、なんだこれ良すぎる〜〜!と思ってそのまま本屋に走った。

--

『食卓に珈琲の匂い流れ』『倚りかからず』にすきな詩がいくつかあったし、エッセイもよめてうれしかった。なんというか、骨太でかっこよい。凛。

--

茨木さんが暮らした家や若き日のポートレートをおさめた写真集『茨木のり子の家』、調理器具や食器の写真と直筆のレシピをおさめた『茨木のり子献立帖』もあつめてしまった。超いい。

 

風の歌を聴け村上春樹

村上春樹をすきな友達が「これが一番おもしろい(これ以降の作品はおなじことを延々といっているだけ)」というふれ込みでプレゼントしてくれた。

--

読んでみたら超おもしろくて、しばらくポッケに入れて5周くらいしてしまった。どんな作品とか、どんな感想とかは、さんざん言われてそうなのでいいとして、わたしはこれはポエだな〜!ポエじゃん?と思って、そういう楽しみかたをしたので、ここで選んでみた。

--

村上春樹は、高校のころ『ダンス・ダンス・ダンス』をよんで訳わかんなくてそれきりだったので、おもしろいジャン!と思えてよかった。思い立ったらダンス×3もまたよみたい。

 

〈ほかのノミネート〉

加藤千恵『ハッピー☆アイスクリーム』はめっちゃカトチエ!ってかんじでたのしかった。青松輝『4』はふつうによくて、なんかよかった。平出奔『了解』は友達🕺に借りてけっこうおもしろかった。オノヨーコ『グレープフルーツジュースはずーっと天啓をうけてるかんじ。天啓めっこをするにはぴったり。

 

 

漫画

『いやはや熱海くん(1)』田沼朝

こりゃいいね!さいこう!

--

顔がきれいでポーっとしてる男の子のはなし。絵もきれいだし、笑いのツボとリズムがどストライク。熱海・足立・国島たちの会話にはいりたい。というかわたしのなかに既に3人がいるので日々がたのしくなっている。

--

漫画はあまり読まないのでほかのピックアップはなし〜!

 

 

:::

 

いままでは読みたい/読むべき本をみつけるのが下手だったけど、ことしはわりと上手くいった気がする。偶然の出会いなんてものはなくて、ふだんから手繰りよせることがだいじ。

 

それにしても文章を書くのはほんとにめんどくさい。去年も言った気がするけど、来年こそは誰かとおしゃべりで済ませたいな〜

 

 

7月の良きことを列挙

1.

6/30の朝日新聞「耕論」

ノンフィクション作家・高橋秀実さんの趣味についての文章、無趣味最強説、できなさこそが趣味という話が良かった。

 

2.

ヴァージニア・ウルフ『ラピンとラピノヴァ』 の一節

 

「ああ、ラピン王」霧を抜けて家路を辿りながら彼女は言った。「もしあなたがちょうどあのとき鼻をひくひくさせなかったら、わたしはきっと罠にかかってたわ」

「でもきみは大丈夫だった」ラピン王はラピノヴァの前肢を握りしめた。

「そう、大丈夫」彼女は答えた。

 

 

3.

諸君ネーム 笛を吹いて歩こう さんの判定不能ポエジャン(#10)

 

おはよう

陽気な牛

しゃぼん玉

マリオ

ぼくの名前は正太郎

労働大好き正太郎

今日も朝から、てやんでい

 

 

4.

映画『怪物』のワンシーン

依里「発車します。ガタンゴトーン、ガタンゴトーン」

湊「もしもーし、そっちは晴れですか?」

依里「晴れてます!ガタンゴトーン」

 

 

5.

6月18日の朝日新聞の一面

天皇、皇后両陛下が即位後初めての外国訪問でインドネシアに到着された記事の「到着」の文字、レイアウトの美しさ

 

6.

7/3の1on1ミーティング

指導教員と事務の方と、宇宙レディ連合としての方針確認を行なった。互いの弱みを見せながら、社会のどこが理不尽なのか我々の研究をどうモチベートするのかについて話した。

 

7.

喫煙所のすりガラスに親指の爪くらいの小さな虹🌈

 

8.

好きなおばちゃん(喫茶コーラルのマスター)の購読してる新聞が朝日☀️

 

9.

ラジオネーム お茶碗勘定さんの35歳の甥っ子のポエジャン「地面を見てみたい」(#17)

 

10.

雲のようなイケカワ・スニーカーを買いました

追記:メルカリで売りました

 

11.

【偉案件】雑貨屋にいたクレーマージジイの撃退に貢献しました

 

12.

授業中に引用された白楽天の詩

百歳無多事壮健

一春能幾日晴明

本当はここまでを記述した榊原篁洲の『詩法授幼抄』を説明するだけだったのに、この先の

相逢且莫推辞酔

まで教えてくれて、嬉しくなりました。

 

13.

契沖『勢語憶断』

「然るに神代より有ける事なれば、みだりに議すへからず。後に嫌はしき事となれるをもて、昔を難すへからす。(中略)たゞありのまゝにさて有なん。

これはめちゃだいじだな

 

14.

ハンガリー詩人の一行

絶望の虚妄なること まさに希望に相同じい

あいおなじい!

 

15.

ディアロークハインリッヒ6 

35分くらいからフェミニズムの話

 

16.

朝5時の自由が丘散歩

 

17.

グレート・リスペクト・プロフェッサーのデスクトップに写っていたお子さんが可愛すぎた。見えちゃってごめんなさい。

 

18.

いわさきちひろ「大人になること」

https://chihiro.jp/words/becomeanadult/

 

19.

研究の関係でインタビューしたヒューマノイド・ロボットの第一人者らしきひと。

違憲判決に、うまく言葉にできないながらも、賛同を明らかにしてくれた。

 

20.

1988年6月19日の天声人語

「父としての森鴎外」みたいな文章

 

21.

グレート・リスペクト・プロフェッサーによる授業の内容変更のお知らせ

 

22.

グレート・リスペクト・プロフェッサーがわたしのデザインした大学Tシャツを買ってくれているかもしれないという事実が判明。教えてくれた友人ありがとう。パジャマとかにしてたら最高に嬉しい。

 

23.

ビジュと雰囲気を激推ししていたクラスメイトと教室の隅っこで話した。缶ビールを飲み、潰した缶を二人でデッサンしながら、ことばは少なく、雨粒のはじけるような時間を過ごした。お互いの研究について、ほんのすこしだけ熱のある声で話した。それ以外の話は、酔っ払いのコールと謎のBGMによってかき消されてほとんど聞こえなかったし、彼も聞こえてなさそうだった。

追記:これ以降ぜんぜん話せていない

 

24.

チェコ人は字の綺麗さ/汚さにマジで無頓着らしい!

 

25.

文楽の出遣い、かっこいい。

 

26.

コンセプト・デザイニング(授業)の講評

認められたいと思った助教、TAに褒められたこと。願いを込めてつくった物語を「救いだった」と評してくれたN教授。小さく乾杯をしてくれたN教授。面白いと思ったものを受け入れてくれたチームメンバー。「率直に面白い。よくできている。」と評してくれたK先生。

 

27.

先端技術を用いた社会課題解決(授業)の講評

子育てをする聴覚障害者をつなぐコミュニティを運営する方からのお題提供で、案をつくってプレゼンをした。案の内容を褒めていただいたことも嬉しかったが、とくに自分の理解と考え、あるいは力を入れた部分が、当事者の方と共有できた瞬間が何度かあったことが、すこし報われた。

 

28.

女の人の限った話はしてないよ

男の人に限ってうろたえる

厳しいそしてややこしい

平成を生き残れるのは

見た目もちょっと素敵な働き者

見事な人になりましょう

完璧にしましょう

今からビシッと鍛えよう

この体いつかは沈む太陽よ

普通の僕らが

神様に与えられたものは

優しくそして丈夫な心意気

(中略)

見事なボディになりましょう

もうトリコにさせましょう

何かとお得な思いをする体

(中略)

この体いつかは沈む太陽よ

そして満月になって照らすのよ

 

PUFFY「とくするからだ」

 

29.

シャンプーの名前を言って笑われる笑った人は五階で降りた

永井祐の連作「夏」

 

30.

ラジオネームお茶碗勘定さんの告白(#32)

 

31.

花やしきのローラーコースター

 

 

ーーー

 

 

7月のテーマは「実践行動」でした。

8月のテーマは「お見知りおき」にしよう。

 



 

『リトル・マーメイド』をクィア・リーディングしていた

地球のみなさんこんにちは。

金曜ロードショーで『リトル・マーメイド』が放送されましたね。

いもうとが録画をリビングでみているので、横目でみながらこれを書いています。

 

そういえば去年のいまごろ、

「ディズニー映画をジェンダーの観点から読みとく」みたいなゼミをとっていて、歴代のプリンセス映画を白雪姫からモアナまで毎週一本ずつみていました。院試の直前なのになーにやってんだという感じでありますが。

 

アリエルは「ひとめぼれ!キス!」みたいな物語だとおもっていたので、ぜんぜん好きではなかったし興味もなかった(いまでもその部分はピンとこない)のだけど、授業の予習でみてみると想像よりおもしろくてびっくりした覚えがあります。

歌がいいのはもちろん、ストーリーの構造やモチーフもかんがえだしたらキリがないくらいおもしろくて、授業のディスカッション後にはけっこう好きになっていました。

 

そんなこんなも一年前か〜と思って

当時のノートと課題として提出した文章

を引っ張りだしてみたところ、いちねん寝かせてもわりと面白いかもだな〜調べてもおなじような視点の文章はないね〜とおもったのでのっけてみる。

実はアリエルは王子に恋をしていなかったのでは?という説について述べてみます。わたしはこれをトリトンがアリエルに足を与えたシーンでふと思いつきました。なぜだか分からなかったけれど、このシーンを見て「ラッキー」と思った自分がいたのです。その理由を映画を振り返りつつ考えてみました。

映画全体を通じて、アリエルの最大の関心は「人間界」に向いていました。人間の作った道具や作品の美しさにうっとりし、膨大なコレクションを持ち、危険を冒してでも人間の情報を得ることに執着しています。人間界との関わりは禁忌であるため周囲には自分の嗜好/志向を隠しつつも、どこか「風変わり」な者として扱われたり、家父長制に違和感を抱く。こうした要素からは、ともするとクィア」としての一面をを持ち合わせていると読めます。

ここで、もしアリエルが王子に恋をしていない、あるいは恋という感情自体をあまり理解せずに、周りの大人や友人に「恋という素敵なものがある」という、それこそ「シンデレラストーリー」のようなものを聞かされて頭で知っていただけだと仮定してみます。(2023/6/5追記 アリエルはAroのスペクトラムにいる、と期待して読んでいますが無論そこにはあてはまらないかもしれない)

人間界に近づく、あるいは人間になるための手段として、「自分は恋をしている」ことにしたのではないか。そんな風に考え始めると、地上での初日を終えてすぐベッドに倒れこみ満足そうに眠る姿も、王子に自分からほとんどアプローチができなかったことにも、合点がいきます。キスを目的に王子と接するアリエルは(声を失ったということを加味しても)どこか浮ついており目が点になっていますが、人間界の生活を体験している時の目は輝いているように見えました。

最終的にトリトンは「そんなに王子を愛しているならば仕方ない」という理由で魔法をかけましたが、アリエルが単純に人間になりたかっただけだとしたら、「目的達成!いろいろ巻き込まれて大変だったけど愛がすべてを乗り越えたってことになったらしい!ラッキー!」と思ったかもしれません。「素敵な男性に恋をし、それがたまたま人間だった」というラブストーリーがあれば、伝統的な父親の反対も、(恋をせず妄想ばかりしている)変わった娘というレッテルもなかったことになると気づいたアリエルは社会構造をハックする賢い革命家に姿を変えます。

なんてことを考えました。もちろん続編?では王子と幸せに暮らしているぞという指摘もあるかもしれません。が、この説は間違っている!とかやっぱりアリエルは無性愛者なのだ!と議論したい訳でもなく、ただ「こんな見方もできちゃった」いうだけの話なのではないかと思います。

(2023/6/5追記 劇中で何度かキスをしていることからもアリエルがAceのスペクトラムにもいるのか、いるとして自認があるかどうか、いないとして今後どうなっていくのかは議論すると楽しそう。ちなみに続編では子供も生まれている。)(2023/12/29追記 さいきん研究者や作家、有名人に特定のアイデンティティ・ポリティクスがあることや、それを表明すること、それらに期待することの暴力性について考えたけれど、だからこそフィクションの存在は批評において重要なのか、はたまたそこにも倫理性が問われるのかどっち/どこまでなんだろう、とかを考えています)

わたしは、そんな見方ができること自体に面白さがあるなあ、とか、自分たちの世界の見方も変わってくるかも?と思いました。

 

 

こんなカジュアルな文章でも課題として受け取ってくれた教授にありがとうです。

 

当時は「クィア・リーディング」という言葉すら知らなくて、なんかこういう試みってあるのかな?と思っていろいろ調べたらポロポロでてきて、そこではじめて知った覚えがある。「リトル・マーメイド」においては、ほかのディズニー映画と同様に「ヴィラン」の魔女アースラがクィアとして解釈されることがおおい。

 

ちなみに短歌も書いていた。

 

アンダー・ザ・シー あなたらしいと言われるため愛を知るふりをした

ー「夢の夢の国」

 

ノートには、教授は大人になってからみたとき「あ~冷戦の話だな~」と思ったらしい、とメモが残っていた。西側諸国にあこがれて越境しようとするソ連や東欧諸国(というよりそれをプロパガンダしている文明国としてのアメリカの植民地主義パターナリズム?)を想起したらしい。いまならなんとなくわかる気がする。たしかにPart of Your World もかんがえてみれば歌詞は露骨だ。名曲だけど。

 

こんかいの金曜ロードショーは、実写版「リトル・マーメイド」の公開にあわせて放送された。ちょうど一年前の授業では「どうやら来年には黒人のキャストで実写化されるらしいぞ」と話題になっていて、それについても盛り上がった覚えがある。気が向いたら観てみたい。

 

ちなみに、わたしの妹(映像系の学生さん)は実写版の予告映像をみて「これCGがすごいと思わせておいいて実は作りは簡単なやつ、製作陣はコストかかんなくてラッキーだと思ってるはず」とか言っていた。へえそうなんだ。

 

 

 

 

満/空(18)


〈満ち満ちているせかい〉

生活感の一歩目、すこし緊張して、たまごケースにたまごを入れる


なんてしあわせ。同じ時刻に寝て起きてそういえば口癖が似てきた


聞き逃すほどの寝息をたてる君 つよい夜風が揺らすバルコニー


話すのが速い人を苦手なわたしだからあなたと話が早い


君のため手に入れたい土地があってね、そこに静かな砂場をつくろう


bless me くしゃみをしてもひとり 飲酒しながらこねるパイ生地


年越しは細く?長く?とか分からない刀削麺で汗をかこうよ


どうしよう 寝起きの話し方をするひとに恋して10年が経つ


終電をYahooに教えてもらってる君にもう一度教えてあげる


ーーーーー




〈空しいにんげん〉

いつかいい感じのバーに連れてくよってたしかに言った二階のガスト


元彼の悪口で盛り上がったね あなたの一部だったその人の


なんとなく気があってきた気がしてた おんなじ友をミュートしていた


誕生日にくれたなにかと同等のなにかを僕は返せていない


早朝の血便 どこへ逃げればいい? なにから逃げるかだけがわかるよ


真理より真実が好きってそう言って Η ΑΛΗΘΕΙΑ ΕΛΕΥΘΕΡΩΣΕΙ ΥΜΑ(真実は私を自由にする)


パーキング・エリアに占ってもらおう満貫の満か空虚の空か


聞かれた?パック潰してストローから噴き出たミルクのような悪口


なかよしのボーダーラインに←0から近似してゆくわたしの罪は






〈最近の様子〉
最近暖かくてうれしいけど、コートとかダウンを着ないとポッケが少なくてやっていけない。こまっている!2月と3月は訳分からんくらいたくさんご飯食べてたくさん飲んでたくさんうんこできた。うれしい〜〜!

カフェ・イン(16)


じゃあまたねカフェから出るとカフェインは君よりすこし長く効いてて


君のティー、僕のブレンド それぞれの作用は目には見えないとする


真ん中の透明なとこがお揃いなことに気がつくドーナツ・トーク


何周目かもわからないダンス 僕は いつからコーヒー飲めたんだっけ


VELOCEのトイレにレモン・キャンデーを流す 禁じられた遊び


今日ここで過ごしたことの証左としガトーショコラの粉ぶちまける


若い子の間で短歌が流行ってるみたいなのよ という名のケーキ


のりかえを間違えトイレによってたら6分遅刻 という名のケーキ


ぼく以外みんな予定があったから暇になった という名のケーキ


今あたし気分がいいからこの店の未読をぜんぶ返してあげる


お並びの方はお先に(ぼくのまえの)お席をお取りくださいませ (ませ〜♪)


元気だった? ダブルピースなんて愛おしい コーヒー泡盛でかんぱいするよ


白色の陶器がうつすコーヒーはまだのこってる あ、そういえばね


Cプレート おくちの気分を合わせたら生きるペースは合わなくなって


口並みをショートケーキで揃えたら目指すはホールケーキの制覇


ホールケーキひとりで楽しめる方のみふたりでどうぞ*ただし切らずに

2022年よかった本

2022年はけっこう本を読めた。

 

70冊くらいと、ZINEや歌集も合わせれば、もうすこしあるかもしれない。

 

就活と院試をやってたはずなのに、なーにダラダラしてんだという感じだ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

ほんとうは誰かと「よかった本を共有する会」みたいなのを、一度できれば十分だったけれど、友達が少ないからか、声をかける勇気がなかったからか、とうとう年内にそういうのができなかった。

 

あっというまに正月、とても暇だし、文章にしてみることにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

よみもの系ベスト3

 

○大阿久佳乃『のどがかわいた』

授業の合間に、国立の本屋でみつけたエッセイ集。タイトルと表紙のイラストに惹かれて買ってしまった。

 

読みはじめたら止まらなくて、けっきょく授業をサボってしまったので、正確には「授業の合間」ではありません。

 

ーーー

 

筆者が詩や物語のたのしんだり、自身の内面から必死に言葉をすくいとったりする様がとてつもなく素敵で、「いいな!わいもこんなふうになりてえな!」という気持ちになる。

 

もしかしたら、去年読んだ本のなかで、ひらいた回数はナンバーワンかもしれない。特にフランシス・ジャムについての文章と、家族についての文章がいい。心が広がるような、世界がきめ細かくなるような、そんな感じがする。

 

ーーー

 

筆者が同い年なのにも驚いた。

 

 

 

 

 

○SAME OLD SERENADE 『if you don't have a heart, you are very lucky.』

 

タイトルも編者もわからず、ただ「離婚にまつわるアンソロジー」という説明とあやしい雰囲気に惹かれて買った同人誌。

 

ーーー

 

フィルムをあけて読んでみても、著者は明かされていないし、どこまでフィクションかもわからない不思議な10篇のエッセイが並んでいて、とてもゾクゾクする。話はどれも純粋に面白いし、それぞれ絶妙に違ういい匂いと思想をまとっている。

 

ーーー

 

失恋した人にちょうどいいじゃん!と思って、読みおえた直後に、たまたま一緒に飲んだ友人に勧めたがやんわり断られた。かなしい。

 

 

 

 

 

○朴沙羅『ヘルシンキ 生活の練習』

 

去年の1月に、ムーミン展のお土産ショップで見つけた。目次をながめていたら

「適切な服装をすれば、天気が悪いなどということはない」

という一文が目にとまり、ハハハ!と思って買った。あとで行きつけの本屋がSNSでこの本を紹介しているのを見かけて、ガハハ!ワシ見る目あるなあ!とたいへん気分がよかった。

 

ーーー

 

2人の子供とヘルシンキに移住した社会学者のエッセイ。いわゆる「北欧推し」の言説を、「隣の芝が青いからってなんやねん」と一蹴する。

 

でもそれ、正直なところ、どっちも「欧米」それ自体に、あんまり興味がないんじゃありませんか。興味があるのは「我が国」とか「私たち」だったりしませんか。

 

うわーそれなそれな。でも、自分もよくレポートで「隣の芝が青いからうちの芝も青くなるように頑張ろう」とか「実は隣の芝が青いのはこういうやばいことをしているからなんだぜ」みたいなことを書いちゃっている。でも大事なのは、比較して優れているとか劣っているとか、そういうことなんだろうか。

 

ーーー

 

こんなふうに振りかえると、なんだか難しい本なのかと思われそうだ。けれど、メインは「子育て&新生活ドタバタ劇inヘルシンキ」みたいなかんじで、まじで声を出して笑える。著者の関西弁のツッコミが軽快で、「面白い」という感想がぴったりな本だった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

他にも、くどうれいん『わたしを空腹にしない方がいい』は読むだけでお腹いっぱい!しあわせな気分になれる。千葉雅也『アメリカ紀行』はいい文章でけっこう好きだった。能町みね子『結婚の奴』もあっという間に読めておもしろかった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

かしこい系ベスト3

 

自分の研究に関する本は全然読まなかった割に、東工大リベ院の教員が書いた本を中心に、いろいろと読んだ。

 

オトナはオトモダチの刊行に際して、帯を書いたり、対談したり、RTしたりと、誰と誰がナカヨシなのかがとても分かりやすい。なので、芋づる式にテーマや関心に沿った本を見つけやすい。

 

 

宮地尚子『傷を愛せるか』

 

祖母が、友人たちの間で宮地尚子の本が流行っていると教えてくれた。自分の通う大学の教授でもあるし、まあ祖母との話題になればいいか〜と思い貸してもらったのだが、まーじでよかった。これ読んでるばあちゃんたちヤバい。

 

ーーー

 

彼女の、研究者としての葛藤を綴った章がとくに気にいった。

 

世界のトップの頭脳がこれだけ集まっても、することって競争しかないのかなあ、と少しすねて考えてみたりもする。

(中略)

こんなに賢い人がたくさん集まっているのに、どうして、世の中は良くならないのだろう。もっと幸せな社会にならないのだろう。そもそも、ここにいる人たちだって、あまり幸せそうに見えないぞ。

 

心に引っかかるささやかな「ねじれ」に立ちどまって考察をめぐらす。真摯で丁寧で、かっこいい。このあと彼女は、一人の血気盛んな若手研究者の姿勢に、学べる点もあると素直に感心しつつ、彼女のポリシーを問い直す。謙虚だけどブレない。かっこいい。

 

ーーー

 

タイトルの通り「傷」についての章もあって、とてもよかったし、「冬は寒いなあ」みたいな章もあって、とてもたのしかった。

 

 

 

 

伊藤亜紗『手の倫理』

 

もう名前を見ない日はないくらいにあらゆる記事・特集・番組に登場して、ソリッドな視点から、面白くて分かりやすくて中身のある話をしている伊藤亜紗さん。

 

全然ブレないのに、フィールドを広げても無理がない。マジでヤバい。

 

ハマりすぎて、5月に彼女の本を全部読んでしまった。その中でも一番よかったのがこの本。

 

ーーー

 

「ふれる」と「さわる」の違いに着目して、コミュニケーションと倫理を「触覚」という切り口で考える、というテーマがもうおもしろい。出てくる具体例もやっぱりおもしろい。

 

なにより、まえがきと第一章が、この本の立場表明のような文章になっているのだが、これがまじですごい。伊藤亜紗の「個の物語を紡ぐ」というライフワークと普遍的な問いとを往復する「倫理的な」営みを、この本ではやっていくよ、というような説明だ。まじかっこいいし、彼女の活動そのものをうまく説明していてヤバい。わたしがそれをうまく説明できなくてゴメンナサイ。

 

多様性を象徴する言葉としてよく引き合いに出される「みんなちがって、みんないい」という金子みすゞの詩は、一歩間違えば、「みんなやり方が違うのだから、それぞれの領分を守って、お互い干渉しないようにしよう」というメッセージになりかねません。

つまり、多様性は不干渉と表裏一体になっており、そこから分断まではほんの一歩なのです。

(中略)

(ウエストンの主張を引用して)つまり、多様性という言葉に安住することは、それ自体はまったく倫理的なふるまいではない。そうではなく、いかにして異なる考え方をつなぎ、違うものを同じ社会の構成員として組織していくか、そこにこそ倫理があるというのです。

 

ここが核心だとおもう。

 

ーーー

 

とりあえず真面目なかんじでおもしろい本を聞かれたら、今年はまずこれをオススメする気がしている。超よみやすいし。

 

 

○栗原康『村に火をつけ、白痴になれ』

 

伊藤野枝というアナキストの評伝。評伝ってむずかしそうと思っていたけれど、読みはじめてみると愉快痛快!おもしろすぎてあっという間だった。

 

ーーー

 

この本は「あの淫乱女!淫乱女!」という書き出しからはじまり、爆裂に心地いいリズムで進んでいく。とにかく暴れ回る野枝のエピソードは全部が純粋にオモロいし、そこにツッコミを入れる栗原康もまじでオモロい。

 

例えば野枝が、とあるキリスト教系の婦人団体の発言に対して論壇でケンカをふっかけた際、その文章を引用したあと、

 

「まあつまりは『お前まじムカつく』ということである」

 

とあって、爆笑してしまった。

 

その栗原康も同じくらいヤバい。あとがきは「3年ぶりに彼女ができてセックスをしまくっている」という話をしている。そんなあとがき、聞いたことがない。めちゃくちゃだ。

 

ーーー

 

野枝の文章や生き様は、日本社会のジェンダー論を破壊するようなインパクトがあるし、ポリアモリーや人工妊娠中絶をめぐる問題にも視点を提供している気がして、まだまだ読み返すような気がしている。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

他にも堀越英美『女の子はなぜピンクが好きなのか』は卒論のアイデアに繋がったのでよかった。伊藤亜紗『記憶する体』もびっくりすることがたくさんあった。中島岳志『思いがけず利他』も座談会に行くくらいおもしろかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

小説ベスト3

 

○年森瑛『N/A』

衝撃的すぎる、まじでヤバい。

 

大学の図書館で息抜きでもしようと思い、なんとなく手にとった文學界の巻頭にあった。

 

読後しばらく動けず、なんとか帰宅したあともぜんぜん飯が喉を通らなかった。

 

ーーー

 

はじめは、湿度のある人間関係の描写と、主人公の苦しい心の声に、もうなんも言えない!うわあああああ!おしまいだああああああ!という打ちのめされた。わかるわかる。どこまでも絶望。

 

けれど、何回か読むうちに、ラストシーンに登場した友人と元恋人の言葉にグッときて、なんとかこちらの現実にも希望を見出せるようになった。

 

ーーー

 

そういえば、一昨年も文學界新人賞の『彼岸花の咲く島』にもだいぶ影響されたので、今年もどうなることやら、たのしみ。

 

 

 

 

 

村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』

 

主人公がラスト30ページで覚醒する、まじでヤバい。

 

最初は何が起きたのか分からなかった。

 

ーーー

 

村田沙耶香は、心身を削って書いていることが作品から伝わってくる。なので自分もちゃんと向き合わなきゃならないし、途中で閉じてはならない気がして徹夜で読んだ。けれど、ラスト30ページの「覚醒」があまり理解できず、もやもやしながら朝を迎え、登校した。

 

中央線に揺られながら、なんとなくYouTubeを開いた。本当にたまたまSMAPの「Dear WOMAN」が出てきた。

 

サムネのキムタク美しすぎかよ!ヨダレ出んぞ!と思って再生したら、なんてこった、この小説のモヤモヤの全部が腑に落ちてしまった。

 

ーーー

 

主人公は覚醒後、クラスで常に容姿を貶されている信子に

 

「私、この白い街で信子ちゃんが一番綺麗だと思う」

 

「どんなに殴られても、そう思う。それは私の価値観だから、撤回できない。」

 

と伝える。これが「Dear  WOMAN」の

 

「君がどんなに否定しても本当だから揺るがない 君がとても美しいという真実」

 

「愛しい人がこの国で生きてるという震えるくらいの奇跡」

 

などなど、この曲の歌詞全体が、小説と完全に重なり合った。そうかそうか、そうだったのか。村田沙耶香のファンの方にはすこし申し訳ないけれど、長編小説のメッセージを、音楽を補助線にしてスッと理解してしまったのは、少しおもしろい体験だった。

 

ーーー

 

この読書体験を通じて、「Dear  WOMAN」の方も大好きになった。気分がよくなると、サビがCMソングとして有名なのをいいことにカラオケで歌って人にきかせては、「懐かしいねー」なんて言ってごまかして、内心ひとりでホクホクしている。キモいね!

 

 

 

 

加納愛子『黄色いか、黄色くないか』

Aマッソの思想が強い方、加納による中編小説。

 

Aマッソのラジオを聴きはじめたころ、図書館で借りて読んだ。すこし感動してしまって、すぐに書店で買った。

 

ーーー

 

芸人と劇場スタッフの裏側を描いた物語で、だいたいの人はそこを楽しむだろうけれど、わたしはすこし違った。序盤からちょっと少しずつ垣間見える、主人公のコンプレックスが、自分と同じなんじゃないか?と思えた。同じな気がする!だよねだよね!と、どんどん感情移入して、応援したくなる。

 

ラストシーンでとうとう明かされたトラウマは、驚くほど鮮明で、フィクションだと分かってはいるものの、これを描いた加納も自身も同じような経験をしたんじゃないか、と信じたくなる。というか信じている。

 

ーーー

 

この物語の主人公はお笑いを救いにしている。ということは、加納が劇場に立つ理由も、そういうことなんじゃないか。この人のお笑いを生で見たいと思い、ライブに行った。出囃子で泣いてしまった。まじでキモいかも!

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

他にも、カミュの『異邦人』は、終電を逃してマックで朝まで耐久するために読んだが、ほんとに終電を逃してよかったと思うくらいおもしろかった。太宰の『斜陽』は旅行のお供だった。『総理の夫』は去年4冊読んだ原田マハ作品の中でダントツで面白かった。映画もみた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

本棚をひっくり返して、パラパラと読み返しながら、

去年のことを思い出しながら、たくさんみかんを食べた。

たのしい正月になった。

 

 

でも文章を書くのはやっぱり難しい。

今年は誰かとおしゃべりで済ませたいぞー